ビルテ・ハンセンと考える生物多様性

 

ビルテ・ハンセン:"私は自然の未来に楽観的です"   

 

洋上風力発電の施設は海洋生態系にどんな影響を与えるのでしょうか?また、洋上風力などの再生可能エネルギーと周囲の環境は調和し、共存できるのでしょうか?オーステッドは、グリーン・エネルギーの普及はむしろ、生物多様性をより豊かにするための機会を提供すると考えています。
今回ご紹介するビルテ・ハンセンは、オーステッドの情熱的な生物学者で、経験豊富な環境スペシャリストです。今回、洋上風力発電の開発時に、生物多様性を守り、より豊かにするための取り組みがどうして重要なのかについて、ビルテにインタビューしました。

―ビルテさん、こんにちは。ビルテさんが生物学の世界に入られたきっかけは何ですか?
ユトランド半島の北部にある農場で育った私は、自然豊かな環境で育ちました。その環境が大好きでした。10歳になる頃には、デンマークにあるすべての植物の名前を言えるようになっていました。10代の頃はお小遣いを全部使って、WWF(世界自然保護基金)等の会員になったこともあります。私は大学で生物学と景観管理を学んだ後、EU諸国に自然環境保護に取り組み政策や環境整備を促すコンサルタント会社に入社しました。

2007年にオーステッドに入社した当時、洋上風力はまだ新しいテクノロジーで、競争力のある電源へと成長させることに焦点が向いていました。こうした中で当時は、海洋生物・環境にとっても、洋上風力開発は多くのポテンシャルを提供し得るということには、あまり関心が向けられていませんでした。以来、様々な過程と変化を経て、企業のポートフォリオの中で、自然環境が占める立ち位置も大きく変化して来ました。

―あなたは、私たちの生物多様性においてオーステッドが辿ってきた旅路を直接体験してきた方です。どのように変化したのでしょうか?
私が入社した当時、この業界は生物多様性や自然保護に関して積極的というよりは、むしろ消極的でした。しかし、私たちが直面している生物多様性の問題は、長年にわたってそこに存在し続けている課題です。洋上風力発電所を建設する際には、鳥や魚、海洋哺乳類が餌を食べたり休息する場所を避けるか、少なくともそういった場所に与える影響を軽減する方法を見つけなければなりません。私の部署では、環境影響評価を行い、環境上の支障がない場所を特定していますが、ここ数年、周囲の生態系にむしろプラスの影響を与えるような解決策を見出すことも多くなっているのです。

2012年、アンホルトにある風力発電所で、人工漁礁に関する技術的な問題を解決したのが、この取り組みにおける最初の一歩でした。海底に大きな岩が点在し、タービン(風車)の基礎やケーブルの設置が困難な状態でした。政府当局が自然保護の観点から大きな石の撤去を許可しないため、石を積み上げて漁礁に似た構造物を作ることを思いつきました。これは、生物多様性への取り組みがプロジェクトの価値を高めた重要な事例となりました。

―人工漁礁について、他の自治体はそのようなイノベーションを受け入れてくれたのでしょうか。
オランダのボルッセレに作ったした人工漁礁のように、多くの自治体が人工漁礁を取り入れることを定めつつあります。この案件でも、オランダ政府の公募において、入札者が生態系を強化させる取り組みを提案内容に盛り込むことが義務として組み込まれていました。私たちが手がける洋上風力発電プロジェクトとしては生物多様性がマストな項目となった最初のケースです。そのため、事業者としては、自然環境を考慮したソリューションの一部を見直す必要に迫られました。入札にこのような要件を盛り込むことは、政府が海と陸の両方においてポジティブなインパクトを実現するための強力なツールになるでしょう。
 

 

アンホルトとボルッセレでの経験から学んだことは、私たちがネット・ポジティブなエネルギー開発を目指す上で、非常に貴重なものです。

―具体的にどのように地域の生物多様性を支えているのでしょうか?
ボルッセレ1&2の洋上風力発電所近隣の海域では、タイセイヨウダラが減少しているため、その生息環境を改善することに重点を置くことにしました。魚が身を寄せることができるように、パイプを使った岩礁を作りました。このパイプは、すべて地元で調達したものです。実は、本来なら捨てられてしまうような、故障した水道管を使いました。つまり、このプロジェクトには循環型の資源利用という要素もあるのです。

オランダのワーゲニンゲン海洋科学研究所が、タイセイヨウダラのモニタリングと、このプロジェクトが生物多様性に与える影響の観察・計測を担当しています。収集したデータは一般に公開され、自然との共生に関するオーステッドの取り組みから、他のステークホルダーや広くは社会全般が学び、知見を得ることができるようになります。気候変動や生物多様性の損失というグローバルな戦いにおいては、こういった知識を広く共有していくことがとても大事なのです。
ボルッセレで、水道管をリサイクルして作られたタイセイヨウダラのための人口漁礁を作ることから得られた貴重な経験と学びは、これからの新しい取り組みに活かしたいと思っています。最終的には、当社が新たに取り組む再生可能エネルギーのすべての案件において、周囲の自然環境と生態系、生物の生息地、生物種に対して、全体としてポジティブな影響を及ぼすこと=生物多様性ネット・ポジティブなエネルギー開発を目標に掲げており、実現を目指しています。アンホルトとボルッセレでの経験から学んだことは、私たちがネット・ポジティブなエネルギー開発を目指す上で、非常に貴重なものです。
 
―生物多様性の危機を解決するために、さらに何ができるのでしょうか?
地球の自然環境は危機に瀕しており、膨大な量の生物多様性が失われていますが、核心的な問題についてはまだできることがあると思っています。オーステッドの生物多様性に関する考え方は、この十年ほどの間に根本的な進化を遂げました。しかし、再生可能エネルギー産業だけでは、グローバルな環境・生物多様性の課題を解決することはできません。生物多様性がこれ以上失われないようにすることは、人類と地球にとって緊急の課題です。政府や、関係する規制当局は、オランダの洋上風力開発公募案件で、生物多様性への取り組みを提案に盛り込むことが義務化された様に、生物多様性への取り組みを支援するような条件を整えることができます。法的要件や制度設計、資金提供のあり方等を通しても支援できますし、生態系の強化を入札や許認可における明確な選定基準の一つに組み込み、評価することによっても、ポジティブなインパクトをもたらすことが可能です。

一人の社員として、また生物学者としての私から見ても、オーステッドは正しい道を歩んでいると思います。私たちは生物多様性への取り組みにおいて重要な歩みを進めていますし、世界中でより多くの開発プロジェクトにおいて、生物多様性と環境保護への取り組みを導入しています。なので、私は自然の未来に楽観的なのです。
 
持続可能レポート 2021

地球と人類のためのグリーン・エネルギ

オーステッドは、再生可能エネルギーをゼロ・エミッションはもちろんのこと、より広くポジティブな変化をもたらす原動力としています。